トランス脂肪酸

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 1993年アメリカで、ランセットにとても衝撃的な論文が発表されました。発表したのはハーバード大学のウィレット教授で、85,095人の女性看護師を8年間にわたって食事のデータを調査したところ、「トランス脂肪酸は、冠動脈疾患(CHD)などの心臓病のリスクになる。」というものでした。 

 アメリカでは、食品医薬品局の独自のデータに基づくと、もし食物供給からトランス脂肪酸を取り除くことが出来れば少なくとも年間約1万1千人~3万人の心臓病による早すぎる死を防ぐことが出来て、さらに年間500億ドルの医療費を削減できると推測されています。 (Guide to healthy eatingより)

 さらにトランス脂肪酸を多く含む食品を好む人は糖尿病になりやすいことも分かりました。 2%のトランス脂肪酸で糖尿病のリスクが39%も高まったのです。(American Journal of Clinical Nutrition, June 2001より)

 またシカゴ近郊の65歳以上の住民8,500人を追跡した結果、トランス脂肪酸をたくさん摂っている人ほど認知能力が低下するという報告もあります。(米国神経学会誌 Neurology 2004.05.11号より)

 他にも調べればたくさんの害があることがわかります。

 さてここで某大学名誉教授が言うように日本人は摂取量が少ないから問題は無いと言い切れるのでしょうか?

 2003年、WHO(世界保健機関)はトランス脂肪酸を心臓病のリスクを高める物質としました。そしてその摂取量を1日の総摂取エネルギーの1%未満にするよう目標値を定めたのです。日本人の場合は、およそ1日に2gです。

 そこで1日あたりの摂取量を調べてみるとアメリカが5.8gに対して日本は0.7g~1.3gと確かに少ないように見えます。(内閣府・食品安全委員会より)

 しかし各食品別トランス脂肪酸の含有量を調べてみると

食   品   名
試料数
トランス脂肪酸(g/100g)
平均値
最大値
最小値
マーガリン、ファットスプレッド
34
7.00
13.50
0.36
ショートニング
10
13.60
31.20
1.15
ビスケット類
29
1.80
7.28
0.04
スナック菓子
41
0.62
12.70
定量下限未満
ケーキ・ペストリー類
12
0.71
2.17
0.26
クリーム類
10
3.02
12.5
0.01

(内閣府・食品安全委員会 http://www.fsc.go.jp/sonota/54kai-factsheets-trans.pdf より抜粋)

 トランス脂肪酸の含有量はこのように製品によってばらつきがあります。わかりやすくするためおよそ1回の摂取量に換算してみると

マーガリン ・・・ 大匙一杯12gとして      0.04g ~ 1.62g
ビスケット5枚 ・・・ 仮に50gとして       0.02g ~ 3.64g
スナック菓子 ・・・ 仮に1袋70gとして     0g    ~ 8.89g
ケーキ類 ・・・ 仮に1個100gとして       0.26g ~ 2.17g

 同じようなスナック菓子1袋でも0gに近い物もあるし、8gを大きく超える物もあります。今日は偶然にも0gの物を買ったけれど次回は8gの物を買うかも知れません。そしてその危険性はだれにでもあります。含有量の表示がないのですから。また一つ一つは少なくてもいろいろなものを食べれば全体として多く摂取してしまいます。

 このようにトランス脂肪酸の摂取量は、食生活によって大きく変わります。1日の摂取量が0gに近い人もいるでしょうし、2gを大きく超える人もいるでしょう。そして、たくさん摂っている人にとっては、やはり大きなリスクとなるのです。

 国民一人当たりの平均値で論ずるべきものではないのです。

 トランス脂肪酸は私たちの身体に全く必要のないものです。だから何g以下なら摂っても良いということではないのです。全く摂らないことが良いのです。

 国は一刻も早くトランス脂肪酸を規制してほしいと思います。